燃えるように赤い満月を見た
・燃える満月
暗いうちからがさごそと。朝陽が上れば、初日の出だ。「今年はいい年になって欲しい」と願わずにはいられない。新年早々に走行開始。1月1日から走るのは毎年の事だ。
5,6km上って、途端に下って川へ出る。ダウンヒルの途中に山脈の後ろ側に見えたゴリスの街。そう一旦河に降りて河に出て、山脈の後ろから上らないといけない。山脈と直角にパイプラインが通っていて、それを下りと上りと2回見る。なんとえげつない。そしてゴリスの街に入っても上っていく。谷の中にある街だ。西側に巻いて高原へ出た。
日が暮れる前になり、台風みたいな風が行く手を遮る。自転車に跨ってもられずに、押して歩いていた。「ごぉーーーっつ」と耳元を駆け抜けていくジェット気流。峠まで、あと少し、あと少しと2,3時間は歩くが届かない。今日は一日上っている。暗くなった中に電気が灯った。「何か工場でも稼動した」と言う位に赤い光だった。だが、これは月だ。燃える様な満月が上がっていく。言葉にならない位に美しかった。月明かりが、また大地を照らしてくれる。
峠に着くのは諦めて、道路脇に入った。隠れる様にテントを張る。
公開していない旅日記に残っていた文章は、旅行作家には当然及ばないけれど、そこまで悲観するほどでも無かった。「伝わる文章」が苦手で書くことから逃げ出したくなるときに読むとなおさら。
2010年の元旦だった。アルメニアを走っていた。首都エレバンで正月を迎えるつもりだったが、激しい峠の連続でたどり着けない。この日も必死に走っていた。一日の最後峠を越えておきたかった。だから暗くなっても諦めなかった。そしたら、燃えるように赤い満月が上った。荒涼とした山岳地帯を照らす赤い月。幻想的な世界は別の星に迷い込んだようだった。
忘れられないエピソードだったのでブログの記事にしてみた。
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・周藤 卓也(しゅうとう たくや)
1983年 福岡県生まれ。
150カ国と13万1214.54kmの自転車世界一周を達成。
次なる夢は福岡でゲストハウスの開業。
WEBライターとしてGIGAZINEで連載